郷大大深度施設の直上には、筒状戦車兵器群が押し寄せていた。まるでいらないゴミを破棄するかのように、すり鉢状にえぐられた巨大なクレーターの底に向かって、容赦なく戦車兵器群がミサイルを撃ち込み、攻撃をつづけていた。
爆発の煙はもくもくと立ち上り、クレーターには蜂の巣のような爆発痕がぼつぼつと空き、そこへさらに爆弾が投げ込まれる。物量に物言わせたこの攻撃によって、郷大大深度施設といえど、崩壊はまぬがれないかに見えた。
ところが、攻撃をつづけていた戦車兵器たちがふと、攻撃を停止した。まるで降り始めた雨に気づいた子供のように、戦車兵器群は上空にセンサーを振りむけた。
戦車兵器群の周囲に燐光を放つ粒子がふわりと浮かんでいる。かと思った次の瞬間、成層圏より時速1万1587キロの早さで急降下してきた飛翔体が、戦車兵器群の足もとに次々に突き刺さった。
直径30センチ、長さ6.1メートル、重さ100キロのタングステン製の金属棒にすぎないその飛翔体は、しかし、上空1000キロの重力加速度を伴って飛来し、その破壊力は20キロトンにも及んだ。大量の兵器を搭載した戦車兵器群は誘爆を起こして、爆発の火球はみるみる広がっていった。
火球の高さは1キロにも及び、偵察用無人航空機も誘爆した。
ヒロは頭を抱えて、この爆発の震動に耐えていた。揺れが収まると、恐る恐る周囲を見回す。大深度施設の天井からは、夜空が垣間見えていた。
「いったい……」
戸惑うヒロに、紅水晶(ローズクオーツ)に「ナナ」と名付けられた少女が、白杖を突きつける。
「本来だったら、わたしは機密保持のためにあなたを殺さなければならない」
戦車兵器を倒したレーザー兵器を首に突きつけられ、ヒロはゴクリと生唾を飲み込んだ。
「待ってよ、ここまでどうやって来たんだ?」
ヒロの意図を探るように、少女がいぶかった。
「歩いてきたんだろ?」
「だったら、どうだというの……?」
「どうやってアクセスしたのかはわからない。けど、衛星兵器なんか使ったら、敵に現在位置を知らせてしまったようなものだ。いまは一刻もはやくここから離脱するべきだ。そうなれば、移動の足が必要だろう?」
少女がヒロに突きつけていた白杖を降ろした。
「職業訓練学校で免許は取ってる。車の運転ぐらいなら任せてくれ」
ヒロがそう言うと、少女は大事そうに胸元で『オプト・クリスタル』を抱きしめた。