Production notes
株式会社アヌビス・エンタテイメント

弊社アヌビス・エンタテイメントは、光響様とは設立当初より広報展開のお手伝いをさせて頂いております。 9年前、アニメーション制作会社を辞めて独立したばかりのアヌビス・エンタテイメント。弊社の脚本家・春日康徳に独立後、初の脚本・小説執筆のご依頼をいただきましたのも光響様でした。
その後、春日はサイバーパンク朗読劇『広告探偵』などの2.5次元舞台コンテンツや、にじさんじ所属Vtuberトークイベント、HoneyWorksプロデュースのアイドルグループ『LIP×LIP』、タツノコプロ制作の『Infini-T Force』舞台版への参加をしてきました。また、マンガ原作なども手がけるなど、業界の第一線で活躍するクリエーターに育っていきました。
本年度の光響様とのプロジェクトでは「次世代を担うクリエーターの育成」をミッションに掲げ、東京アニメ・声優専門学校様と共に「光・レーザーを広報するコンテンツ制作」を進めてまいりました。
ここではその制作経緯などを振り返りつつ、『崩壊のシュバルツシルト』の制作裏話をご紹介できればと思います。

『崩壊のシュバルツシルト』プロダクションノート画像

企画の立ち上げは2019年4月。東京・西葛西にある東京アニメ・声優専門学校様に光響の住村和彦社長を招き、学生向けのオリエンテーションが実施された。オリエンテーションを受けたのは、学校でアニメビジネス専攻(編集者、制作管理、宣伝・配給、プロデューサーなどを目指す学科)を学ぶ生徒の面々。

「レーザー・光を広報する」という今回のミッション。レーザー機器を身近なものに感じてもらいたい、という住村社長のオーダーを受け、学生たちは若い世代に受け入れられる=感情移入や興味をもってもらえるキャラクターデザインにしようと考えた。そこでまずアニメビジネス専攻の学生から、イラスト専攻の学生に対し「こういうキャラクターを作成してほしい」と発注する資料を制作するという、商業プロジェクトさながらの手順が踏まれた。
ビジネス専攻の学生が作成した資料は、現在大人気の女性向けアプリゲームを参考にした。理由は、頭身や性格によって分かりやすくキャラ分けされたコンテンツだから。身長が高いキャラクターだらけ、明るい性格だらけでは作品の面白さが欠けてしまう。また、学生は消費者に近い存在。作品作りには消費者理解=マーケティングができることが必要になってくる。流行っているコンテンツで人気のあるキャラクターはどんな見た目をしているか、どんな性格なのかという点にも目を向け、発注資料は作成された。
どういう形で広報するか学生たちは考えた末、若い世代が身近に感じられるキャラクターたちによって「レーザー・光についての科学講座を作成する」ことに。そのためのスケジュール制作や、制作体制を学内で整えていった。
『崩壊のシュバルツシルト』では一枚絵をアニメーションのように動かすことができるソフト・Live2Dを使っているため、制作には多分にアニメ制作工程の要素が含まれている。

ここで、アニメーションの制作工程を簡単に説明したい。
アニメーションはまず、1.企画の立案が存在し、その後、2.脚本作業に入る。そして脚本をもとに3.キャラクター設定や美術設定を描き起こし、4.絵コンテを制作。以上の段階を「プリプロダクション」と呼ぶ。
その後、絵コンテをもとに5.レイアウト・原画作業、さらに6.美術作業、アニメを動かす7.動画作業を経て、8.仕上げ(色塗り)作業、制作素材を撮影する9.撮影・編集、声を入れる10.アフレコ、そして最終的なビデオデータを納品形態にする、ビデオ編集・完全パッケージ、という工程となる。

ビジネス専攻の学生より選出したプロデューサーおよび、スケジュール通りに行われているかチェックし工程を調整するラインプロデューサーが、アニメ制作工程を参考に制作を進めていった。今回の特殊な点は、上記制作工程の2.脚本作業を、3.設定作業の後に持ってきた点といえる。

また今回のプロジェクトでは、声優を担当する学生に当て書き(出演俳優の起用を想定して書く)という手法を用いた。これは、学生への消費者マーケティングから導きだした最適解を、広報コンテンツに反映させたいという思いからである。



『崩壊のシュバルツシルト』プロダクションノート画像

5月ビジネス専攻の学生が作成したキャラクター発注をもとに、イラスト専攻の学生にキャラクターデザインが依頼される。いまや世界に誇るIPデベロッパーとなった日本で、アニメ制作を学びたいという留学生も多くが参加していた。

7月キャラクターのラフデザインが上がる。
当初、「科学講座の制作」を想定していた本プロジェクト。しかし、魅力的なキャラクターが揃ったことで、スマートフォンゲームのような、壮大なスケールの物語を感じられるビジュアルノベルの形式も取り入れようと構想が膨らむ。

8月ラフキャラクターの中から採用となるキャラクターが選出された。ここで登場キャラクターが決まったので、脚本作業に入る。脚本は春日康徳と、アートディレクションを努めた倉科が担当。難解になりがちな光学知識をエンタテイメントとして楽しめるストーリーになるよう心がけた。
また、ビジネス専攻の学生が発注し、イラスト専攻の学生がデザインしたキャラクター。1つ、1つのキャラクターに学生の思いが込められている。そこで主人公やヒロイン以外のキャラクターにも、それぞれ見せ場があるよう工夫を凝らした。

9月脚本決定稿を踏まえ、作品タイトルを『崩壊のシュバルツシルト』と決定。絵コンテ作業に入る。絵コンテは映像の設計図にあたる。
この絵コンテを踏まえ、アートディレクションの倉科が美術設定を作成。『崩壊のシュバルツシルト』は「光子機関」という研究施設内で繰り広げられるストーリー。そのため、「同じ施設内である」という統一感が出るように研究室や廊下、会議室はすべて青みがかった色味に。青という色で統一したのは、「近未来」という言葉で連想される色だから。青にも海のような青や、空のような青、様々な種類がある。今回は少しくすみがかった青になるように、色の微調整を繰り返した。

10月採用キャラクターの納品がこの時期。今回のプロジェクトで使用したLive2D。Live2Dのソフトを使用し、一枚絵をアニメーションのように動かすためにはレイヤー分けが必要となる。
通常のイラストを描く際もレイヤー分けは必須な工程だ。肌のレイヤー、目のレイヤー、髪のレイヤーとパーツごとに分け、それらを重ねていくことで一枚絵が完成する。しかし、Live2Dのイラストを作成する際、細かな動きを再現するためには更に細かなレイヤー分けが必要となる。
どうして細かなレイヤー分けが必要なのか、髪の毛を例に簡単に説明するとこうだ。
短い髪と長い髪の揺れ具合は異なる。長い髪ほど遠心力によって、大きく揺れる。前髪が短く、後ろ髪が長いキャラクターの場合、自然な髪の揺れを表現するためには前髪の揺れは小さく、後ろ髪の揺れは大きくしなければならない。そのため、別々にモーション付け・アニメーション作業できるようにするため、前髪のレイヤーと後ろ髪のレイヤーで分ける必要が出てくるのだ。自然な動きを再現しようとするほどレイヤーを細かく分ける必要があり、イラスト作業は煩雑になる。
キャラクターの納品を受け、制作はモデリング作業に移行する。

Live2Dのモデリングはレイヤー分けされたパーツごとにモーションをつけていく。「目を閉じる」動きをキャラクターにさせるためには、まぶた・上まつげ・下まつげ、それぞれの目のパーツを「閉じた」状態の形にしなければならない。パーツごとに割り当てられたアートメッシュを変形させ、形作るのだが、下手に動かすと線がグニャグニャになってしまう。まるでアニメーションのような動きになるように各キャラクター、パーツを慎重に調整しモデリングしていった。



『崩壊のシュバルツシルト』プロダクションノート画像
『崩壊のシュバルツシルト』プロダクションノート画像

11月各話の編集作業がスタートする。
実は一番、大変だったのは1話・2話の作成。というのも「バンクシステム」の蓄積がないからだ。
バンクシステムというのはアニメや特撮において、特定のシーンを銀行(バンク)のように保存し、別の部分で流用することを指す。『機動戦士ガンダム』の富野由悠季氏は、『鉄腕アトム』の制作現場からバンクシステムを考案した。バンクシステムは日本のアニメ制作現場特有の考え方である。
あまり誇れることではないが、世界に誇る日本のアニメは作画資源が枯渇している。いかに効率を突き詰めるか、費用対効果の戦いをしているのだ。本プロジェクトで制作した『崩壊のシュバルツシルト』も本来であれば、各話各シーン、キャラクターに違う動きをつけ作成したいという思いがスタッフにはあった。しかし上記のとおり、Live2Dのモーション付け・アニメーション作業は難解である。初めてLive2Dを触った学生も多く、1シーンごとに違う動きをつけていては膨大な時間がかかってしまう。納期に間に合わせるために、バンクシステムを利用する。そんな日本のアニメ制作のエッセンスが『崩壊のシュバルツシルト』にも詰まっているといえるだろう。

12月アフレコが開始。ここから東京アニメ・声優専門学校で声優の勉強をしている声優専攻の学生や、音響専攻の学生にも参加してもらう。
オーディションで選ばれたキャストたちによって、三週にわたって収録が行われた。
授業がある関係で、全専攻の学生が集まって収録できるのは月曜日の10時から12時の間のみ。二時間に限られた。三週合わせて六時間の間に、全8話を収録しなくてはならない。各話だいたい7分ほど。それに加え1分ほどの科学講座の収録も行わなくてはならない。時間との戦いである。
Live2Dで動かしたキャラクターの口の動きに合わせ、声優専攻の学生が声を入れていった。この「パク合わせ」が非常に難しく、「キャラクターの口の動きについていけない」と苦笑いする学生も。また、光学知識を説明する部分は普段は絶対に口にしない難しい用語の数々。噛まないように、スムーズに言えるようにと、自分の出番以外も練習する姿があった。
声優専攻の学生にとって、機材や音響のスタッフが揃った中でのアフレコ収録は実は貴重な経験。普段の授業では練習室での演技指導が多く、アフレコブースに入れることは僅か。そのためプロのようにアフレコができることに感動し、学生の目はキラキラと輝きながら真剣な面持ちだった。
登場キャラクターの中には、声音を変化させたり叫んだりしなければならないキャラクターがおり、演技においてもかなり苦労があった。しかし、アフレコ回数をこなすうちに学生たちはキャラクターを自分のものにしていき、何度も「もっとこういう風に演技して」と修正指示が出ていた最初の収録に比べ、最後は一発でOKが出ることが増えていった。
また、今回レーザー装置を動かすシーンでナレーションを日本語・中国語・英語に分け、「近未来の研究施設」らしさが出るような演出が取り入れられた。声優専攻の留学生に中国語・英語に訳してもらい、ネイティブの発音でアフレコしてもらったため、とてもカッコよく仕上がっている。



今回のプロジェクトを通じ、アニメビジネス専攻の学生はアニメ制作過程を学んだ。また、企業との関わり合いの中で、作品のクオリティやスケジュールの意識、費用対効果、多くのことを経験しただろう。デザイン専攻の学生は発注に応えるキャラクター作りの難しさ、Live2Dにおけるキャラデザイン作成の大変さを学び、声優専攻の学生にとってはプロさながらのアフレコを経験する場となった。
今後、それぞれの道に進み業界第一線で活躍していく学生たち。
今回のプロジェクトは『崩壊のシュバルツシルト』を観て頂いた方に「レーザー・光の魅力を届けられた」だけでなく、制作に携わった学生に将来を照らす光、強みを届けられたように思う。

執筆者:
株式会社アヌビス・エンタテイメント
倉科佳菜美