モード同期Tiサファイアレーザーキット

Tiサファイアレーザーとは

チタン(Ti)サファイアレーザーは、 1982 年に P.F.Moulton により始めて発振が確認された。チタンサファイア (Ti: Al2O3 :Ti:sapphire) 結晶は、ルビーレーザー (Cr: Al2O3 レーザー) の母材と同じサファイア結晶 (Al2O3) に Ti3+ をドープしたものである。Al2O3 は熱伝導が良いため、高繰返し、高出力レーザーとして適している。これらの特徴から、チタンサファイアレーザーは Dye レーザーの代替として広く実用化されており、フェムト秒分光や非線形光学、白色光発生、テラヘルツ波発生などの研究に幅広く用いられている。

チタンサファイアレーザーの吸収スペクトルと蛍光スペクトルを図1に示す。図のように、Ti: Al2O3の蛍光スペクトルが非常に広いため、レーザー共振器内に波長選択素子を挿入することにより、660~1100nm の範囲の波長可変レーザーが可能になる。更に、モード同期によりパルス幅 5.5fs までの超短パ ルス化が可能であり今でも研究が進められている。普及しているチタンサファイアレーザーのパルス幅は~100fs、繰返し周波数は 70~80MHz で、平均出力は~2.5W 程度である。

一方、吸収スペクトルは緑色領域 (ピークは 488nm) にあり、また蛍光寿命と誘導放出断面積の積が小さいため、レーザー発振にはビーム品質の優れた強い励起光が必要である。よって LD 励起ではなく、アルゴンイオンレーザー (514nm) や Nd:YAG、Nd:YLF、Nd:YVO4 レーザーの第 2 高調波 (527~532nm) によるレーザー励起となっている。これは Ti: Sapphire レーザーの不安定性の原因となっているため、最近は LD で直接励起する方法も検討されている。

チタンサファイアレーザーと同様の原理で発振する赤外域の超短パルスレーザーでは、Cr:Forsterite 結晶を用いた Cr:Forsterite レーザーが市販されており、InGaAlP 系 LD (670nm 帯) で励起できる Cr:LiSAF や Cr:LiCAF レーザーも存在する。

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図1:Ti: Al2O3の吸収スペクトルと蛍光スペクトル

モード同期Tiサファイアレーザーとは

モード同期チタン(Ti)サファイアレーザーの最も一般的な構成は、図2で示されるカーレンズモード同期 (Kerr-Lens Mode locking:KLM) またはセルフモード同期と呼ばれる非線形光学現象を利用したものである。従来の固体レーザー同様に共振器内に励起光が入射され、レー ザー光が発振・増幅する。増幅して高強度となった光の高強度部分は、レーザー媒質内で誘起されるカーレンズ効果 (光強度が高い位置の屈折率が増加し、レーザー媒質がレンズのようになること) によって収束する。レーザー光の高強度部分はスリットにより選択され、強いパルスだけが共振器内で安定に存在するようになる。これによって超短パルスが生成される。共振器内のプリズム対は、レーザー媒質内で起こる時間的なカー効果 (自己位相変調) によるパルスの広がりを補償するために用いられる。プリズム対の代わりにチャープミラーが用いられる場合もある。また,最近は KLM の代わりに半導体可飽和吸収ミラー (Semiconductor Saturable Absorber Mirror:SESAM) を用いたモード同期レーザーが登場している。

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図2:カーレンズモード同期チタンサファイアレーザー