カーボンナノチューブ(CNT : carbon Nanotube)は炭素原子のみからなり、直径が0.4~50nm、長さがおよそ1~数10µm(人の髪の毛の約1/10000くらいの細さ)の1D構造のナノ材料である。その化学構造は炭素の6員環を蜂の巣のように並べた平面状の物質(2D構造)であるグラファイト層(グラフェン)を丸めてつなぎ合わせたもので表され、層の数が1枚だけのものを単層カーボンナノチューブ(SWNT : Single-Wall carbon Nanotube)と呼び、二層のものをDWNT、多層のものをMWNTと呼ぶ。SWNTの直径は~1.4nm、長さは数μmであり、特有な構造と簡単な構成から非常に興味深い物質である。グラファイト層の巻き方(らせん度)に依存して電子構造が金属的になったり半導体的になったりする。吸収される光の波長は,ナノチューブの直径に依存する。CNTは巻き方によって、アームチェア型(armchair)、カイラル型(chiral)、ジグザグ型(zigzag)に分けられる(図1参照)。これらCNTの分類を示す高品質な画像はWikipediaで確認できる

カーボンナノチューブの巻き方

図1:カーボンナノチューブの巻き方

可飽和吸収帯としてのSWNT

カーボンナノチューブの回復時間は高速である(~1 ps)。これは、半導体ナノチューブ中での励起状態エネルギーが、非常に速いチューブ間の相互作用によって移動し、金属ナノチューブによって逃がされるためである。また、カーボンナノチューブはその異方性のため、偏光に依存した吸収特性を持つ。 具体的には、CNTの長さ方向では光吸収や発光が起こりやすく、直径方向では光吸収や発光が起こりにくい。

半導体的性質を示すSWNTは、近赤外波長領域(1.2~2.0 μm)に非常に強い光吸収をもつため、光通信波長領域で可飽和吸収体として利用される。この吸収体の波長は,SWNT の直径に依存する。SWNTの代表的な合成方法は,アーク放電法,レーザー蒸着法,化学的気相成長法(CVD法)の3 つである。

CNTと超短パルス光源

CNT を可飽和吸収素子として用いた受動モード同期光ファイバーレーザーは、2003 年に初めて報告された[1]。吸収波長ピークが1.68 μm 付近、波長幅が0.4 μm 程度のスプレー法によるCNT薄膜(厚さ~1 μm)をエルビウムドープ光ファイバーレーザー中に挿入することにより、受動モード同期によって最短で318 fs のトランスフォームリミットに近い短パルスをセルフスタートで発生させることに成功している。またCVD を直接合成したCNTでもフェムト秒領域でのモードレーザーの実現に成功している[2]。その後,様々なCNT 素子を用いたファイバーレーザーが構築されている[3]。

CNTデバイスの構成

CNT デバイスの構成としては、光路に対してCNT 薄膜を垂直に配置するのが一番単純なものである。また、CNT は機械的な強度が高いことからCNT 薄膜を光ファイバーコネクタ間に挟み込むことも可能であり、光ファイバーレーザーとの相性も良い。しかしこの方法の欠点として、光がCNT薄膜の狭い場所に集中するため、高出力時にダメージが起こるという点があげられる。この問題を克服して高出力化を図るため、CNT 薄膜を導波路/光ファイバーのコア部分の上部に配置し,エバネッセント波によりCNT 薄膜と光を結合させる構造と、CNT をコア中にドープまたは注入する構造も提案されている。ただ、これらの方法には作製が困難といった問題点がある。 現在、SWNTの精製方法(直径・分離方法など)や,デバイス化(直接堆積・フィルム化など),共振器への挿入方法や、共振器の構成(形・分散値・偏光状態・挿入場所)などが精力的に研究されている。

単層カーボンナノチューブのメーカー

Reference and Links

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